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真夜中の集金日誌 第一話

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ここはピラミッドハウス、東棟105号室、ニムの部屋。

ドアをノックすると、「どうぞ」という声が中から聞こえてきた。ニムのものではなかった。
錆びついたノブを回して、中に入る。
部屋の真ん中に、青い色の長いスカートの女の子が立っていた。

「やあ」と僕は言った。
「こんばんは」と少女は答えた。

「家賃の集金に来たんだけど」
「ごめんなさい、ニムはいないわ」

僕はしばらくの間、少女を眺めた。見覚えのある姿だった。

「あの、家賃の代わりといってはなんだけれど、よかったら、私のダンスを見ていってもらえません?」

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少女は長いスカートの裾をつかみ、踊りだした。
時折足を高く上げ、つまさき立ちになる。ステップの過程で部屋の中を移動し、窓に手を付く。窓が開いて、夜の涼しい風がさわさわと入ってきた。机の上の古い大きな本が、パラパラとめくれる。

ダンスが終わった。

「どうでした?」少女は言った。

動きを止めた少女の髪が、風に揺れる。

「ニム、そんなことでごまかしてもダメだよ。今月分、ちゃんと払って」

僕は声を震わせないように、あごに力をこめて言った。

「なんだよ、ケチ」

愚痴りながら、ニムは変身を解いた。
男の子に戻っても、長いスカートのままだ。

「ちゃんと『管理人さんの今一番会いたい人』で変身したんだけどなあ」
「ダンスはしないんだよ。運動は苦手だった」
「ああ、そっか。失敗した」

ニムは頭をかきながら、古い本を持ち上げる。そこに隠してあったコインを一つ、僕に手渡した。

「でも、上手だったよ」と僕は付け加えた。

「やっぱり?」嬉しそうに笑うニムに、僕は大きくうなづいた。

「とても素敵だった」
「えへへ」

そして、そっくりだった。
ダンスをしなければ、僕は気づかなかったかもしれない。
気づきたいと思わなかったかもしれない。

それが海の向こうの戦争で、死んだ妹なのだと。